大手工場に勤めて4年。今年初めて新人を任される事になった。出世争いが激しいわけでもないし、適度に体と頭を使う仕事は性にあう。課長は仕事の鬼だが情が無いわけじゃない。人数は少ないが女子社員とも上手くやっているし、将来を悲観した事はなかった。
アイツに会うまでは。
4月、スーツ姿の新人が挨拶の為並ぶ中、真っ先に目がいった男。
「本日からお世話になります、大羽風汰です! 学生時代はずっとバレーボールをやっていました。」
大羽風汰。バレーボール。180センチくらいの長身、人当たりのいい笑顔。元気な声。
目の前の情報が、記憶の中の人物と重なった。
忘れようとしても忘れられなかった、俺のファーストキスの相手がそこに居た。
「技術開発課に所属する事になりました。まだまだ至らない所が沢山ありますが、頑張らせて頂きますので、ご指導ご鞭撻のほど、どうぞ宜しくお願い致します!」
配属先を聞いて眩暈がした。俺と同じ部署、つまり俺が任される新人はアイツって事か。
実際は只のチャラ男な新人との日々を考え、俺は一気に憂鬱になった。
俺は中学・高校とバレーボールをやっていて、高2からは副部長もしていた。大羽は俺の一つ年下で、校則違反ギリギリの髪色と、常に女を絶やさない事で目立っていたタイプだった。練習や試合に来る女の半分は大羽が目当て。それでも練習は真面目にこなしたし、調子の良い事を言って周りを笑わせてたから、そんなに敵を作る事もなかった。
特別親しかったわけじゃないが、誰にフラれただの、別れただのという話には何故か付き合わされていた。俺から見れば大羽は、常に女の尻を追いかけている癖に誰とも本気にならずに別れる、恋愛で遊ぶタイプだった。只のチャラ男で、時々オネェ言葉で、女と別れる度に「ラーメン奢って下さい」とくっついてくる、部活だけは真面目な後輩。
その印象が変わったのは、高3の冬。推薦で専門学校への進学を決めた俺は引退後もよくバレー部に顔を出した。練習に混ざったり、部活後に大羽と軽く打ち合ったり、失恋ラーメンをたかられたり、そんな毎日は、冬のある日を境に変わった。
続きは次回ブログにて
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