入社式から3週間後、ついにその日がやって来た。
「赤羽君、頼んだぞ。」
新人研修が終わり、いかつい鬼課長が大羽と俺の間に立って言った。大羽は今日から正式にうちの一員になる。服もスーツではなく作業着だ。
「どうぞ宜しくお願い致します!」
そう言って一礼する姿は見慣れていて、嫌でも過去を思い出させた。
「宜しくお願いします。」
俺と面識がある素振りを見せない大羽に、俺の事を忘れているかもしれないという希望的観測を持ちながらそう言うと、鬼課長は頷いて席に戻っていった。隣の席になった大羽に座るよう指示し、俺は新人教育の為に用意したプリントを渡した。事務所の座席表、任されている現場の機械一覧、その中で担当して貰う仕事などを記載したそれをざっと説明し、二人で現場に向かう。
こんな時、本来ならコミュニケーションのきっかけになるだろうバレーボールの話や、学生時代の事は何も聞けなかった。忘れているなら思い出してほしくない。覚えているなら尚気まずい。
階段を下り、廊下を抜け、防火扉のように重い扉を開けて、今日から担当する事になる現場の班長達に挨拶を済ませた。機械の仕組みや配電盤を見せ、故障した際の対応やその他雑用について説明して歩く。大羽は新入社員らしい態度でそれを聞き、時々質問を交えながらプリントに色々書きこんでいた。
部活以外に真面目になる様子を初めて見たが、そういえば工学系では名の知れた大学を出ているし、高校でも一応授業は真面目に受けていたのかもしれない。
説明を終えるごとに会話が途切れ、その沈黙に居心地の悪さと気疲れを感じて、俺は内心溜息をついた。
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