クリスマス前、俺は付き合っていた彼女と別れた。女と幅広い交友関係を持つ大羽はいち早くそれを聞きつけ、メールを送って来た。
『先輩、カノジョと別れたってマジすか? 実は俺らも合コンしたけど今から反省会なんすよ。気晴らしも兼ねて皆で焼き肉行くんで来て下さい。今日は俺らが奢りますw』
彼女と別れる事は予想していた。悪いのは俺だったが、気晴らししたい気持ちから誘いに応じると、大羽は妙にはしゃいでいた。部の後輩やその友達だと言う何人かと一緒に下らない話で盛り上がりながら焼き肉を詰め込んだ後、夜中にカラオケになだれ込んだ。2次元アイドルの歌を裏声で熱唱する奴、地声でハモろうとする奴、親の世代と思われる歌謡曲を歌う奴、色々いてカラオケも妙な盛り上がり方をした。
そして朝、俺は眠気にフラフラしながらナチュラルハイになった大羽と帰宅していた。
「先輩ヤバくないっすか? 俺んち泊って、軽く寝てから帰って下さいよ。なんならベッドもエロ本もトイレも貸しちゃうわよ。」
眠くて薄眼を開けて歩く俺の肩を組んで支えながら、大羽はケラケラと笑った。いつもカノジョいるくせに何でエロ本持ってんだよ生意気、と思いながら俺は睡魔に負けて大羽の家で眠る事にした。
あまりに眠くて、奴の部屋の様子だとかそういえば家族に会わなかったけど理由を聞いたかとか、そういう事はよく覚えてない。
ただ二人で狭いベッドに倒れ込んで、無気力な俺とハイテンションの大羽で押し合って、
「お前も寝るならもっと端行けオラ……。」
「イヤンどこ押してるの。」
「……落ちる。つか片足落ちた。」
「落ちる時は一緒よ!……アラやだ、足なんて乗せて積極的ね。」
とか何とかやっているうちに、俺は大羽を文字通り後ろから抱き込んで眠ったらしい。
爆睡して起きると、視界いっぱいにふわふわの髪があった。長めの茶髪に指を突っ込むと耳が見えて、何となくそれを触ってうなじから肩のラインを撫でた。女じゃない事は見れば分かるのに、手触りがいい。寝起きでぼんやりしながら、前に落ちていく腕を辿り、めくれた服の隙間から中に手を入れた。あったかさにつられて引き締まった腰から胸を撫で上げる。そこで見付けた突起を何の気なしに弄ると、体がピクリと揺れた。強弱をつける度に反応が変わって面白い。背中を俺の胸に押し付けて来るのは誘っているようにも思えた。
俺はその突起が何かとか、相手が誰かとか、全く考えていなかった。縋る様に俺の腕に手を添えて震えるソイツが可愛かった。
赤くなった耳をパクリと咥えると、ソイツは大きく肩を揺らし、逃げる様に顔だけで俺を振り返った。真っ赤に染まった頬、困ったように見開かれた潤んだ瞳、物言いたげな唇。
初めて見るその表情が確かに大羽だと分かっても、俺は可愛いと思ってしまった。
しかも、可愛さのあまり、キスをしてしまった。
触れるだけのキスを繰り返し、大羽が抗うどころか体の力を抜いてきたのをいい事に、俺は胸の突起を弄りながら舌を絡めた。
「んっ……あ、や……赤羽…せんぱ……。」
逃げる舌を追い、唇を甘噛みし、指で突起を擂り潰すたび、大羽は予想外の可愛い声を漏らした。
そして俺の手が大羽のズボンのファスナーに触れた時。
「風汰? 居ないのー?」
突然部屋のドアがノックされ、俺は一気に目が覚めた。ガバッと起き上った拍子にベッドから転がり落ち、次の瞬間、部屋のドアが開いた。エプロンをつけた女の人がそこに居た。
「あらごめんなさい、お友達? ちょっと風汰、お友達あげておいて何寝てるのよ!」
大羽が動いた気配はなかった。動けない、という方が正解かもしれない。
「まったくもう、困った子ね。……ごめんなさいね、たたき起してやってね。」
「あ、いえ……大丈夫です。」
何が大丈夫か分からなかったがそう言うと、大羽の母親は申し訳なさそうに会釈して扉を閉めた。静かになった部屋で、鼓動だけが煩い。
俺は今、大羽に、何をした?
血の気が引く思いで恐る恐る振り返ると、大羽は同じ姿勢のまま、顔をベッドに押し付けていた。乱れた髪が広がって顔色もうかがえない。
「ごめん、大羽!」
俺は言い捨てる様に謝ると、その部屋から逃げ出した。
それから二度と会話は無かった。俺は部に顔を出さなかったし、お互いメールもしなかった。卒業式の日に一度だけ目があったが、逸らされた。
そして二度と会う事はなかった。
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